レスキューGDI  

直噴ガソリンエンジン:

 MMCが1996年8月に量産車としてはじめて実用化したガソリン直噴エンジンは、燃費に優れ、同時に出力向上にも有利というポテンシャルを持ち、トヨタ、日産が追従し次第に今後のガソリンエンジンの主流になるかの勢いでした。 しかし、排気ガス規制において不利な点、その構造にゆえのコスト高を理由に、GDIは、次第に表舞台から消え去り今では、発売当初の面影すら無いのはどうしたことなのでしょうか? しかし、一方では、トヨタは着実に車種を増やしています。 最近では、VWやアウディ、アルファロメオもガソリン直噴エンジン実用化搭載し始めています。 でも何故三菱は、あれだけ情熱を注いだGDIをやめると言ったり、力を入れないのでしょうか? それには、ちょっと難しい要因が絡んでいるようです。 完璧だと思っていたGDIのシステムを改良するには多大な開発費がかかる事、ダイムラー・クライスラーの資本参加で開発効率を問われている事、従来の技術でもGDI同等以上のエンジンが低コストで造れる事、GDIの排気ガスレベルをULEVにできない事、まして、現行GDIエンジンが添加剤を入れないと性能を保てないなんて技術者のプライドから言えない点等があるようです。 でも三菱さん、現在欧州で主流になってきたバリアブルバルブリフト車の一部には、エンジン内部のカーボン堆積に起因するエンジン始動不能・困難等の重大問題が発生し、添加剤を使用することで対応している某有名カーメーカーがある事をご存知ですか? 直噴ガソリンエンジンの先駆者ゆえ、添加剤の有用性に頼れないなんて言っていては、良い技術も死んでしまいます。 新技術ゆえに起こるトラブルとどう立ち向かっていくか、販売前ならともかく、販売後対応できる全ての可能性を検討すべきではないしょうか? 今後燃料添加剤は、オイル交換と同様習慣になることは間違いないでしょう。 精密になればなるほど、さらに必要性は高まります。 オイルだって交換が必要、添加剤を使用して性能が保てるのなら何も複雑な機構を採用しなくても優れていると言えるはずです。

 さて、メーカーへの助言はこの位にして、GDIの不具合の主な原因について説明します。

GDIの機構と弱点:

まず、GDIの機構を理解しましょう。 GDIは希薄燃焼時にタンブルフロー(吸気のエンジン内部の流れをシリンダー軸方向に吸い込ませる。)とお皿状の窪みを持たせたピストンヘッドに向けて燃料を燃焼室に直接噴射させる事を特徴としています。 これらの主な目的は、希薄燃焼時、燃料が縦方向の気流に乗って点火プラグに着火可能な濃度のガソリンを含んだ混合気が到達し点火できるようにする為です。 これは単純に聞こえるかもしれませんがかなり高度な制御を行っています。 同時に燃料の噴射圧力も一般ガソリンより高くしてあります。 新車時には非常に軽快かつエンジンレスポンスに優れアイドリングも安定しています。 また、走行状況に応じ2つの燃焼モードを使い分け、加速時や負荷の高い走行時には、吸気工程中に燃料を噴射し、ポンピングロスを減らし、充填効率を高くしています。(簡単に表現すれば、より多くの空気をシリンダー内に取り入れる事ができて燃焼効率がアップします。) アイドリング時や低負荷の走行では、吸気工程に少し燃料を噴射させ非常に薄い混合気を作り更にでは圧縮工程中に再度燃料を噴射させます。 圧縮工程中に噴射させた燃料は点火プラグ周辺に失火する事の無い十分な混合比を作り出すため、全体では薄い混合比でも十分なトルクを発生する事ができ、同時に少ない燃料で走行を可能にしたすばらしい技術です。(注: 希薄燃焼時の2段噴射は、輸出モデルに採用されています。 初期のGDIは吸気工程で噴射を行っていません。 現在全ての車種に2段噴射が使用されているかは確認が取れていません。) 

 このすばらしい技術で、CO2を減らす画期的エンジンとなったGDIですが、走行距離が増えるに従い、燃料噴射ノズルやピストン上部の汚れが発生し、アイドリング不調や加速時の黒煙排出等、想像もつかない不具合が出てきます。 メーカーは、エンジンコントロール用ECUのロムの書き換え(2段噴射の採用か?)、アイドリングアップ、点火プラグの変更等多くの対策・努力をしてきました。 しかし、現状は残念ながら完全な対応とは言いがたいものと思えます。 理由は原因は何かを十分承知しているはずなのに中途半端な対策を行い、その結果GDIオーナーの一部からはGDI=ガソリン直噴エンジンはトラブルが多いとの印象が根付いてしまいました。 それが他社のユーザーの間でもかなり知れ渡っているように思えます。 多分それが理由で、トヨタは最近、あえてD4とうたう事をやめています。 同時にトヨタの場合は、少しずつ改良を重ね、今では特別クレームは発生していないようです。 トヨタにとってD4はもう通常の技術で特別なものでは無いと考えていることもその理由の一つではあります。 では何故D4は問題が少ないのでしょうか? 不具合の原因の多くは、GDIの場合、希薄燃焼時に混合気をプラグに運ぶタイミングと、ガソリンが噴射ノズルから噴射後気化する行程の違いから来るものと判断できます。 また、GDIの噴射ノズルは円錐形に燃料を噴射するため、円錐の中心部は、空気と触れにくく、一部のガソリンは圧縮工程中に気化できないで、ピストン上部のお皿状の部分で気化します。 ピストンヘッドがカーボンで汚れてくると一旦ガソリンがカーボンに吸着され、その後気化する事が起こり、ガソリン気化のタイミングが狂って(遅れて)きます。 噴射ノズルが汚れると噴射したガソリンの粒子にむらが生じ、さらにこの状況は助長されます。 でもエンジンの汚れがこの様な現象を起こすことは決して特異なことではなく、通常の燃料噴射エンジンでも起こることは非常に良く知られています。 通常のエンジンでは空気管内で噴射した燃料が、吸気バルブのチューリップ状の部分についたカーボンに吸着され、ガソリンの気化が送れるため、適切な混合気が作れず、エンジン始動性の悪化、加速時のエンジンレスポンス劣化等を引き起こしています。 つまり十分この状況は、ガソリン直噴エンジンでも考えられたことです。 では、何故他社では問題にならないのか? そんなことはありません、理論的に優れている直噴ガソリンエンジンであるのに、日産車のDDエンジンもいくつか理由がありますが、生産は縮小されています。 また、VWやアウディ、アルファロメオ等は、まだ新しく日本国内では問題が発生していないだけと予想しています。 でも最近発売した他社のエンジンは、GDIの問題点を十分知った上で開発販売していますので問題は少ないと予想する事もできます。 多分燃料噴射圧力やそのタイミング、吸気のシステム等多くの異なる技術が使われていると思われます。 今しばらく、マーケットの状況を見ていきたいと思います。 
では、D4がGDIと異なる点を中心に筆者が現在最も進んでいると判断する燃料噴射ノズル形状とその理論を次にご紹介します。

最新ガソリン直噴技術へ